この本は、初版10万部のうち、9万部を紀伊國屋書店が買い上げて各書店に卸す、という方法で販売するという手法を取られており、その点かなり異色。(といっても、私は発売から数日たってから文教堂で買いました)
確実に売れると分かってるからこそとれるやりかたではあるけれど、東野圭吾さんとか、池井戸潤さんの新作でもできそうな気がする。
私は村上さんの小説を全て読破しているわけではないので偉そうなことは言えないのだけれど、村上さんの小説が好きか嫌いかで言ったら好きです。ただ、海辺のカフカ以降の作品はあんまり熱心に読んでいなくて(つまりもう10年以上ちゃんと読んでいないということだと気づき、愕然…)もっぱらエッセイばかり読んでいるという、あんまり褒められない読者である。…というより、村上さんの尺度で言うと読者にカウントされていないと思う。
私が初めて村上春樹の小説に接したのは、国語の教科書に載っていた『風の歌を聴け』だった。国語は比較的好きな教科ではあったけれど、教科書と便覧を読んで時間をつぶしていて(大体学期の初めに全て教科書を読み終えてしまうのだった)、その中で出会ったのだった。多分退屈な授業だったのだろう、私は夢中で読んだ。そして退屈になる度に読んだ。
風の歌を聴け、はとにかく読んでいて清々しい気持ちになる小説で、手元にないけれどその時の感覚はなんとなく思い出せる。神宮球場でビールを飲みながらデイゲームを見る光景とか。(あれ、風の歌を聴けでいいんだったかな)
私は長いこと、作品中の小説家が実在するものだと思っていた。
村上さんはいつも、ある日ふと小説家になれる気になって、机に向かって書いてみて、そしたら賞を取って…という話を書かれているので(その話どこでいつ読んだかも定かでないぐらいである)でも、30年以上職業小説家として、活躍されている中で、ここまで詳細に書かれていることはないような気がするので嬉しかった。
ただ、村上さんの小説を読むとつい自分にも小説が書けるんじゃないか?何か一つぐらい書くべきテーマがあるんじゃないか?なんて錯覚させてしまう罪深い人でもあるなと思うのだけれど、どうなんだろう。平易なことばで書かれているからなのだけれど。他の作家さんだと、吉本ばななさんも私にとってはそう。(恥ずかしい…)村上さんも、誰にでもできる、でも続けるのは難しいと書いている。そこには彼の自負を感じる。
自伝的エッセイ、と帯には書かれているけれど、むしろどちらかというとビジネス書っぽい。私は1人の人の立身出世のストーリーが好きなので、その感覚で読んだ。(といっても村上さんの文章なので、ビジネス書の無味乾燥かつすぐに役立つ内容ではなく、時に回りくどく、行きつ戻りつ、でも我々に大切なことを教えてくれるような。)
別に小説家を目指す人だけじゃなく、何かを成す人がどういう取捨選択をしてきたか知るだけでも、そしてそれが村上さんのように(はたから見れば)自由そうに見える人であれば尚更、知りたいと思う。
わたしが職業としての⚪︎⚪︎というものを当てはめるなら、職業としてのサラリーマンだし、職業としてのハハであるし、職業としてのツマである。ハハとかツマとか、立派な職務だと思って日々それなりに頑張っているのだが、職業欄に書くとなると主婦という肩書きに一緒くたになるのが不満である。結構どちらも手がかかる仕事なのにね。兼業主婦、っていうのもなんかしっくりこないし。
正直、私がそれについて語っても全く面白みはないけれど、村上さんが語ることは私の生活にも取り込むことが可能である。
例えば、どんなことでも、続ける、という事には確かに意味があって、小さい頃は分からなかったけれど、今になってみると、何であれ続けたことは私の軸になっていると思う。なので、子供にも何でもいいから何か一つは続けられる何かを見つけてあげたいと思う。無理強いするのでもなく、勝手に続ける何か。今、彼女は本を読むこと、絵を描くこと、体を動かすことが好きなようなので、せめてその特徴をすり減らすことのないようにしてあげたいものだ。
でもって、30年かけて何かを成すことができるなら、何か出来るかもしれないな、と希望を持つことにする。
今、残念ながら私には何もないと書こうとしたのだけれどそれじゃあまだまだ人生長いのにあんまりだから。子どもに過度な期待を背負わせたくもない。
普通にまっとうな人生を送るということがどれだけ尊いかということも十分理解しているつもり。
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それ以来、村上春樹が好きだという男性はとりあえず警戒してしまう。そしてなんとなく、村上春樹作品からもしばらく距離を置いてしまったのだった。思い出したらなんか腹立ってきた。村上さんの新作をリアルタイムで読まなかったのはそのせいであったか。(理由の全てではない)
そういう意味でも、村上さんは人生に影響を与えているなぁと思ったのです。いいのか悪いのかはともかくとして。
なんか、最終的にすごく下世話な話になってしまった…あーあ。